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Tuesday 21 May 2013

畏友

日本に出張すると、仕事以外に友人達に会うという楽しみがある。これは何も僕が海外在住であるからという理由だけではなく、地元を離れて生活している人達には共通する感覚だと思う。僕の場合、地元=実家のある場所、となるだけでなく、地元=日本であり、そこに住む友人達に会う事はこの上なき楽しみなのである。

東京出張の際には、ほぼ毎回、畏友白洲信哉と会うのであるが、彼のストレートな性格は面倒くさい詮索をせずに済むという点では誠にわかりやすく有り難い。恥ずかしがりやな面も当然あるだろうが、友人の事を真剣に考えてくれるいい漢(おとこ)である。

2日前の日曜日、僕は表参道のホロホロというフレンチレストランに行った。レストランに着くとまだ、お店が開いてすぐということもあり、客は誰もいない。一人でテラスでビールを呑みながら信哉の到着を待つ。しばらくするといつもの調子でまじめな顔をした信哉が現れる。その場では旨い飯と旨いワイン、そして何よりも近況を分かち合う愉快な会話があった。彼はつい先日までキューバに行っていたこともあり、キューバの話で盛り上がる。キューバと言えばシガーである。話に夢中になっているうちに腹もふくれてきたせいか、ウイスキーが呑みたいとお互いに考えていたらしく、ウイスキーの呑めるところに行こうという事なった。しかし日曜日という事もあって、僕達のいたレストランの近くにはシガーとウイスキーを出すようなバーはやっていないのである。そこで、信哉の家に行こう!ということになり、ほろ酔い加減で彼の自宅へとタクシーを飛ばし、彼の家に着くや否や、ラフロイグを呑みながら彼の持って帰ってきた見た事も無い長いCOHIBAを吸う。いやーなかなかいい。会話も無く、ウイスキーとシガーの煙にその場の雰囲気がとけ込んでいるかのようだった。彼がおもむろに、彼の御祖父である、故小林秀雄氏の肉声CDをかける。小林秀雄氏を知らない人はいないとは思うが、彼の肉声のピッチはどことなく信哉のそれと似ており、酔っぱらっていたせいもあるのか、CDのカバー写真が信哉とそっくりだ。信哉は父方の御祖父、白洲次郎氏にも似ている。秀雄氏も次郎氏も全く違うタイプの人なのだが、信哉はいい感じのハイブリッドで、どちらにも似ているのである。

僕は小林秀雄氏のCDを聴きながら、最高のシガーと最高のウイスキーを味わうという最高に贅沢な状況の中で、時差ぼけのせいか、不覚にもいつの間にかソファの上で寝てしまった。ふと起きると時計は1時を少しまわったところだった。これはいかん、と信哉を捜すと信哉もいつのまにかソファーに寄りかかって寝ているではないか。僕が先に寝てしまったせいか、彼も一人で何もする事も無く、いつの間にか睡魔に陥ったのだろう。あー俺はなんと言う事をしでかしたんだろう。。という後悔の念と同時に信哉の人柄、つまり、寝たいやつは寝ればいい、という無言のストレートな気持ちを感じたのは言うまでもない。

信哉から土産でもらったキューバの珈琲と小林秀雄氏のCDを抱え、彼を起こさないように忍び足で彼の家を後にした。帰りの雨の中を傘も無く歩きながら、畏友と呼べる友達がこの歳になって出来た事に感謝し、ホテルのある赤坂へと戻ったのだった。

そうそう、僕の想い出の本がまた1ページ増えた事も付け加えておかねばなるまい。




            (信哉宅にて、ラフロイグとCohiba)

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